ダイバーシティマネジメントで会社を存続・発展させる

社内をまとめる上で多様性は障害になってしまう可能性があります。仕事に対する考え方からして違う外国人、会社とは異なる考えを持つ中途雇用など、同僚の立場からも経営層の立場からも、組織の今までのやり方に異を唱える存在は「面倒くさい」のです。よって、出る杭は打たれるという形で多くの組織は同じ考えを持つ者だけで単一化しようとする傾向があります。

ダイバーシティマネジメントとはこのような状況を打破するために生まれたマネジメント戦略です。社員の多様性を受容し、さらにアドバンテージとして活かすための施策を指す言葉です。

競争が激化した現代のビジネスシーンでは面倒だからと言って多様性を受け入れようとしないのは、非常に危険です。なぜなら、単一的な組織が打ち出すアイディアや戦略だけだと先細りしてしまうからです。

しかし残念ながらダイバーシティマネジメントは一朝一夕では成りません。長い年月をかけて行って、はじめて成果が表れるのでハードルが高いのです。それでも世界のトップ企業がこれに取り組むのには、それだけの価値があるからです。

実際に世界規模で有名なP&G社は、毎年多様性に関する企業ランキングを打ち出しているdiversityinc.comに2015年現在でこれまで10年間、上位にランクインしています。同社は経営層の評価の10%を多様性に関する目標達成率とするなどして組織的にダイバーシティマネジメントを行っています。

この記事では、このような手間暇がかかるダイバーシティマネジメントをやらなければならない理由と、どのような企業でも多様性を受け入れ、活かせるようになる施策をお伝えします。

目次

  1. ダイバーシティマネジメントを取り入れた企業の理想の形
  2. ダイバーシティマネジメントを取り入れるべき2つの理由
    2-1. 競合がやらないからやる
    2-2. 企業として存続するために取り入れる
  3. ダイバーシティマネジメント3つのステージ
    3-1. 「多様性の宣言」ステージ
    3-2. 「多様性の受容」ステージ
    3-3. 「 多様性の活用」ステージ
  4. さらなる多様性に挑む

 

1. ダイバーシティマネジメントを取り入れた企業の理想の形

まず目指す目標として、ダイバーシティマネジメントをうまく取り入れた企業の理想形を絵に表わしました。以下をご覧ください。

5一見いびつな形をしていますが、この中心から多方面に伸びるアメーバのような企業こそ、もっともしたたかな企業なのです。単一的な企業が会社一丸となってひとつの目標に突き進むのを得意とする一方で、多様性の高い企業は組織の理念や価値観という中心を基礎に、様々な方法で様々な方角に成長します。

ダイバーシティマネジメントを取り入れるということは、このようなイメージの組織を目指すことだと念頭に置いてください。

2. ダイバーシティマネジメントを取り入れるべき2つの理由

2-1. 競合がやらないからやる

組織の多様性を高めようとすると、不便が生じます。考え方が違う社員が多いと、意思決定に対して反対意見が出やすかったり、社内でミスコミュニケーションが生じたりします。

人は基本的に、面倒くさいことはやりたがりません。これを逆手に取ることに、ダイバーシティマネジメントをやる意義があります。

多様性がもたらす影響

以下のグラフをご覧ください。多様性がもたらす、組織の生産性への影響を表しています。

生産性グラフ

まとめると、こういうことになります:

■ 組織の多様性を高めると、生産性が高いチーム数が増える
■ しかし生産性が低いチームも大幅に増える

これが、多様性が「面倒くさい」と思われる所以です。

「面倒くささ」を逆手に取る

しかし裏を返せばあまりにもハードルが高いので、多くの企業はダイバーシティマネジメントに着手しないのです。そして組織は多くの「平均的な」生産性のチームで形成され、「平均的な」結果しか出せません。このままだとその他大勢の「平均的な」競合の中に埋もれ、世界に名を轟かす企業になることは叶いません。

多様性を高めることで生じる生産性ダウンのリスクを受け入れ、単一的な組織にはあり得ない発想を活かすことで、競合他社より一歩も二歩も抜き出る可能性を作り出すのです。これがダイバーシティマネジメントをやるべき理由のひとつです。

2-2. 企業として存続するために取り入れる

ダイバーシティマネジメントをやるべきもうひとつの理由は、単一的な組織の事業は必ず先細るからです。

この理由を理解するには、事業が成長し、事業が成熟し、失速するまでの過程を見ていく必要があります。なぜなら多様性とダイバーシティマネジメントの必要性は事業の成長度合いに大きく依存するからです。

ダイバーシティマネジメントがどの段階で必要になってくるのかという観点から、これらのフェーズに分類しました:

1. 成功期
2. 改善期
3. 安定・失速期
4. 新事業進出期

では企業が最終的に、先ほどお見せしたアメーバのような組織になっていく過程を見ていきましょう。

企業の価値観をベースに事業は成長する

1. 成功期

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企業はそれぞれの価値観や理念を基に事業を興します。たとえばアパレル分野の企業を例として、「アクティブなアウトドアライフを共にするパートナーを提供する」ことがその組織の理念であり価値観だったとしましょう。動きやすく、防寒や防水などの機能を持つ服を製造し、製品の特徴を知り尽くした自社販売員が販売することで、市場で一定のポジションを確立したとします。

2. 改善期

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そしてこのようにひとたびの成功に甘んじることなく、改善を重ねてこの企業は事業を拡大していきます。

事業の成長はそのうち失速する

しかししばらくすると、だんだんと成長が頭打ちになってきます。事業を拡大するためのあらゆる施策はやり尽くし、アイディアも出尽くしたからです。この段階になると新たな施策は大きな成果を挙げることはなくなり、代わりに二種類の結果のいずれかにつながります:

■ 残り少なくなった改善の余地に取り組んだ結果、小さな成功を挙げる
■ 失速した事業をなんとか盛り上げようと思うばかりに、「迷走」とも言うべき突拍子もない施策に打って出て、失敗する

3. 安定・失速期

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前者は、前記のアパレル企業の場合なら、アウトドア仕様の機能性をそのままに流行りのデザインを取り入れたりすることを指します。後者は、その年ハイヒールが流行っているからと言って、ハイヒールの製造や販売に手を出してしまうようなことを指します。なぜこれが問題かと言うと、ハイヒールとこのアパレル企業の「アクティブなアウトドアライフを共にするパートナーを提供する」という理念は、全く相容れないないからです。

消費者はこのアパレル企業のブランドからハイヒールは求めていませんし、他におしゃれなハイヒールを作っているブランドはいくつもあるのです。ハイヒールを作ってしまうことで、「あのブランドはアウトドアで着るものなの?街中で着るものなの?」と消費者は混乱します。結果、長年築き上げてきたブランドイメージがぼやけてしまうという大惨事につながりかねません。

単一的な組織が成熟した事業でなにか新しいことを始めようとすると、このような残念な結果に結び付いてしまう可能性があります。

多様性を高め、価値観に根差した新事業を生み出す

そこで従来の事業を資金源に、下の図のように新たな事業分野に進出することが求められます。先ほどの「迷走」となにが違うのかというと、ちゃんと企業の理念と価値観に根差した新事業だということです。

4. 新事業進出期

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しかし慣れ親しんだ今までのやり方でなにか新しいことをしようとしても、結局は以前行った施策の焼き増しになってしまう可能性があります。そこで他分野の経験豊富な人材を外から入れたり、部署を越えてチームを作ったり、ターゲット市場のローカル人材を本社で登用したり、他社とコラボレーションをするなどして組織の多様性を高めた上で新しい事業に挑むのです。ここで重要なのは、多様性が上がった後の組織が元の理念や価値観にしっかり根差した考えをもっていることです。

ダイバーシティマネジメントが新事業を有効にする

このように、多様性を上げつつ組織の理念や価値観を保つという一見矛盾しているようなことを行わなければなりません。ダイバーシティマネジメントの出番です。これをやらないことには有効な新事業は生まれず、先細る一方の元ある事業に頼り続け、いつか組織は廃れてしまうのです。

ひとつの事業が成功し、安定したら、新たな発想が生まれるように多様な人材を集め、新たな事業への進出に取り組むのです。こうすることで、先ほどお見せした理想の絵のように、人間も事業も多様な強い組織を作ることができるのです。

5

このようにダイバーシティマネジメントは企業が競争社会で長期的に存続し、発展するためには必要不可欠なのです。

3. ダイバーシティマネジメント3つのステージ

では多様性を受容し、強みとして活かすにはどうすればいいのでしょう?それは、組織の文化に多様性を組み込み、社員がいつのまにか多様性を当然のことのように捉えるように仕向ければいいのです。

ダイバーシティマネジメントは大きく分けて次の3つのステージから成ります:

①多様性の宣言ステージ
②多様性の受容ステージ
③多様性の活用ステージ

それではひとつひとつのステージを見ていきましょう。

3-1. 「多様性の宣言」ステージ

組織に多様性を受け入れ、多様性を活かす性質を付与するには、次の2つのことが有効です

■ 組織のトップが多様性向上を目標として掲げ、宣言する
■ 「多様性向上」を評価制度に組み込む

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トップが多様性向上を打ち出す

企業文化はトップが「今日から変える」と言ったからと言って、次の日から変わるものではありません。しかし長い道のりであるがために、トップが最初にゴールを指し示さなければならないのです。

そこで企業のトップに「これからの競争で勝者になるためには従来のやり方だけでは不十分です。よって、戦略の多様性を高めることを目標に、5年かけて社内の多様性を高めていきます。」などと全社員に向けてビジョンを宣言してもらうことが必要です。

明確な期日と、さらに手段(男女比率を見直すのか、海外拠点の外国人社員を本社に呼び人種的な多様性を上げるのかなど)も明確に宣言するといいでしょう。すると社員は目標に向けて期日までに各々がなにをしなければならないのかイメージしやすくなります。

評価制度に「多様性」を組み込む

確実性を求めるなら、「多様性向上」を管理職の評価制度に組み込むといいでしょう。トップが提唱するビジョンに社員が賛同し、いくら多様性向上に取り組んでも、それが昇給などの形で評価されないことだとしたら、次第にモチベーションは下がってしまうことでしょう。

もちろんこれは理想であり、従来の評価制度を変えるのは容易なことではありません。多様性向上に貢献しなくても給料は下がらないが、貢献すると給料が上がる、というインセンティブのような位置付けにするなどして社内からなるべく反発がないように取り扱う必要があります。

さらに、多様性を高めた上で好成績を収めたチームを社内報で大きく取り上げるなどするとなお効果的です。このように社員の動機付けをし、多様性向上に自発的に取り組むよう差し向けることが重要です。

3-2. 「多様性の受容」ステージ

このステージで有効な施策は次のふたつです:

■ 部署や階級を越えた多属性ディスカッションを定期的に行う
■ 社内でチェンジエージェントを発見し、ディスカッションのファシリテーションをさせる

多様性の受容

社内で多属性ディスカッションを行う

多様性向上をビジョンとして打ち出した後、次に行うべきことは「多様性を受け入れる訓練」です。

ダイバーシティマネジメントと聞くと、人種や男女比率のことを考えがちかもしれません。では今現在、日本人社員のみで構成されていて、男性社員が大半の企業はどう訓練すればいいのでしょう?

実は規模が大きな組織は、普段意識していないだけで、どれも高い多様性を秘めています。社内に眠る多様性を利用して組織のダイバーシティ訓練を可能にするのが、多属性ディスカッションです。

部署や階級間の溝

部署や階級が違えば、考え方は大きく異なります。これが社内に眠る多様性の正体です。たとえば経営層や管理職は数字を通して「大局」からものごとを考える一方、末端の社員や現場の責任者は顧客や実務を通して「個」からものごとを考えます。双方しっかりした根拠があっての考えなので、双方正しいのです。しかし双方逆の立場から考えることは難しいため、「上はわかってない」「現場はなにをやっているんだ」といった不満が生じます。これは、部署や階級間でのダイバーシティマネジメントができていない状態といえます。

溝を越えて対話する場

そこで部署や階級を越えたディスカッショングループを形成し、これから自社がなにをすべきかを議論させます。つまり、営業・開発・マーケティング・人事などの各部署が管理者レベルとスタッフレベルを同じ部屋で同時に話させるのです。こうすることで、一方が見えていないことを相手は見えているということを知り、一方の立場からだけでは知り得ない情報を共有することができる「場」を用意するのです。そこから普段は思いつかないようなアイディアのヒントが見つかったり、ずっと悩みの種だった問題の解決策が案外近くにあったことを知ることができたりします。このようなディスカッションを毎回違う構成員で定期的に(たとえば1カ月に一度)行うことで、違う考えを持つ人同士の関わりに組織が慣れていくのです。

良いディスカッションの題材としては、以下のようなものが考えられます:

■ この企業の理念とは
■ この企業の価値観とは
■ この企業の顧客から見た現在のイメージとは
■ この企業の強み・弱みとは
■ 自分の立場から見たこの企業の課題とは

初めは「憂鬱な多属性ディスカッション」を社員が「いつもの多属性ディスカッション」と捉えるようになる頃には、多様性の受容ステージは完了です。

チェンジエージェントを用いる

この多属性ディスカッションの効果を確実なものにする方法があります。チェンジエージェントと呼ばれる、変化の触媒となる人材を社内で見つけ、多属性ディスカッションのファシリテーションをさせるのです。

ここで言うチェンジエージェントとは、複数の部署での勤務経験を持つ、敵や味方を基準にものごとを考えず、目標を基準にものごとを考える、合理的で意欲的な人材のことを言います。各部署の管理者にそのような社員がいないか聞けば、必ず1人は見つかるはずです。

この人物が部署や階級の橋渡しをすることで、建設的な、質の高いディスカッションができるようになります。

3-3. 「多様性の活用」ステージ

多属性ディスカッションを定期的に開催し続けていると、普段触れ合うことのない社員同士が意気投合したり、どの部署にどのようなスキルを持った人材がいるのかを把握できたりします。部署や階級を越えた「横のつながり」が形成され、縦割り的な組織の中の壁がもろくなります。

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例として次のような恩恵が生まれます:

■ 今まではずっと下請けに頼んでいた仕事が実は別部署の人材の方がもっとうまくできるということがわかる
■ 文書では伝えきれない現場の「肌感覚」的な情報を管理職レベルと共有できるルートが生まれる
■ 部署や階級に縛られることなく意欲がある社員を集めてチームを作り、難易度の高いプロジェクトに挑める
■ 部署や階級を越えたコミュニケーションに抵抗がなくなる

これらの恩恵を実感する頃には、多様性の活用ステージはすでに始まっています。多様性を受容し活用する新しい企業文化を基に、新たな事業に挑戦、またはさらなる事業拡大を目指すのです。

4. さらなる多様性に挑む

社内の多様性の受容と活用ができてきたら、今度はいよいよ最終目標である、男女や人種間のダイバーシティマネジメントに着手する時です。たとえば海外の拠点から優秀な外国人社員を本社に呼び、経営判断のプロセスに加えるとなると、もちろん初めは社員が戸惑うこともあるでしょう。

男女や人種間の多様性にいきなり挑もうとすると、社員は次のような多くの「違い」に戸惑います:

■ 階級の違い
■ キャリアの違い
■ 人種または男女の違い
■ 言語の違い
■ 考え方の違い

しかしここでお伝えした多属性ディスカッションのようなダイバーシティマネジメント施策を長い間行っている企業なら、戸惑う期間は遥かに短いはずです。なぜなら社員はほとんどの「違い」にもう慣れてしまっているのですから。つまり社員が戸惑う理由は次の2つだけになります:

■ 人種または男女の違い
■ 言語の違い

組織が多様性に慣れていくには、繰り返しになりますが、時間がかかります。確実に成果を出すために、今回提案した通り段階的に慣れようとするならばなおさら時間がかかります。

ダイバーシティマネジメントは時間がかかるからこそ、今すぐに取り組み始めるべきなのではないでしょうか。