後で絶対に揉めない!コンセンサスを得る重要性とテクニック

コンセンサスとは取り決めに関する、利害関係者(ステークホルダー)全員の合意を指します。ビジネスにおいてプロジェクトを円滑に進めるためには根回しなどを通して事前にコンセンサスを得ることが大事ですが、多様な考え方やバックグラウンドを持つステークホルダーたちが軒を並べるグローバル企業の場合はより難しくなります。

ただでさえ根回しは楽ではないのに、グローバルな環境の中でのコンセンサス取りは、ハッキリ言ってとても大変です。ただ、ちゃんとやれば、後でとてつもなく大きな見返りを期待できます。今回はグローバルな組織においてのコンセンサス取りの方法を、具体的な例を踏まえてご紹介します。

目次
1. 最後に揉めないために、最初に揉む
2. 見切り発車は後で報いを受ける
2-1. 見切り発車が伴うリスクがわかるシチュエーション
2-2. コンセンサス取りをすることで自らが得られるメリット
3. ピクサーから学ぶコンセンサスの取り方
3-1. ブレイントラスト試写会
3-2. ブレイントラスト試写会での映画監督の姿勢
3-3. ブレイントラスト試写会から得られること
4. コンセンサスを得る3ステップ
4-1. ステップ1: たたき台は、たたき台のつもりで作る
4-2. ステップ2: 意見や批判が出尽くすまで引き出す
4-3. ステップ3: 改めて方向性を伝える
5. ステークホルダーたちが敵でないことを知る

1. 最後に揉めないために、最初に揉む

あなたがプロジェクトの企画と運用を任される立場だとしましょう。コンセンサス取りの基本は、勝負が始まる前に勝負を決めることです。つまり、プロジェクトが走り出す前に、ステークホルダー全員との合意形成にこぎつけることが大事です。当たり前のことのようですが、現実では「あの人と話すのは後でいいや」とついつい後回しにして、それが原因でプロジェクトの途中で揉める、というのはよくあることです。

プロジェクトの運用が始まってプロジェクトに集中したい時に、余計な労力がかかったり方向転換を余儀なくされたりしてしまうのは、できれば避けたいことですよね。

そこで、以下のようなイメージで、プロジェクト開始前にコンセンサス取りに多くの労力を費やすことで後々の労力を最小限に抑えます。

コンセンサス1

2. 見切り発車は後で報いを受ける

見切り発車は後々慌てふためくだけが短所ではありません。全ステークホルダーにきちんと説明したり相談したりしないままものごとを進めるということは、各ステークホルダーの観点から見えるリスクを把握しないまま事に当たる、ということです。これがなぜ問題なのかを具体的な例を通して説明します。

2-1. 見切り発車が伴うリスクがわかるシチュエーション

以下のシチュエーションを想像してみてください。

背景

アメリカはワシントンD.C.にある大口の新規顧客に数回に渡って訪問し、先方が自社の商品購入を真剣に検討してくれていて、次の会議で契約を締結できる見込みであるとします。先方企業の経営者は教育を重んじるユダヤ教の信者であることもあり、とても博識な人物です。多くのユダヤ人社員を束ねています。あなたは一か月前の8月に行われた最後の会議では仕事の話に留まらず、様々な話題を話す中で、先方との親睦を深められた手ごたえを感じています。

見切り発車が判明

Failure

この勢いのまま契約を締結させたいと思い、9月下旬に再び渡米するための飛行機、ホテル、先方へのメールなどを、チームや上司と確認することなく、よかれと思い自分一人で一気に済ませてしまいました。後日、先方の返信が珍しく遅いなと思っていたところに、上司が声をかけてきました。

「D.Cのお客様との次の会議をそろそろ設定した方がいいな。9月は難しいだろうから10月の後半くらいで打診してみたらどうだ。」
「え?なんで9月が難しいんですか?9月中に契約できるように今資料を用意していますよ。それに一昨日メールで、前回からちょうど一か月後の9月15日あたりで契約日をご提案しておきました。」
「なんで先に確認しなかったんだ。知らなかったんだろうけど、ユダヤ教は9月のどこかが新年祭の祝日だよ。すぐに調べなさい。」

調べた結果、今年は9月13日の夕方から9月15日までがユダヤ教のローシュ・ハッシャーナーという新年祭の期間であることがわかりました。宗教上の決まりで、この期間中は一切働いてはいけないのだそうです。

「日本の正月三が日にお客様に伺わせてください、と言っているようなものだ。すぐに電話して謝りなさい。知らなかったとはいえ大変失礼なことだ。」

コンセンサスを得ずに行動した後の周りの評価

先方は「異文化どうしの取引にはありがちなことです。お気になさらないでください。ですが次回の会議は10月にお願いします。」と寛容な対応をしてくれたものの、上司からのあなたの評価は以下の通りになります:
大変熱意とスピード感溢れる人材だが、失敗が会社全体にもたらす影響を軽く見積もっていて、慎重さに欠いている。まだ大きな仕事を任せるわけにはいかないな。

チームメンバーからの評価は以下になります:
今回は先方が寛容だったから大事に至らなかったものの、今後、せっかくみんなで積み上げた成果を台無しにしかねない。

2-2. コンセンサス取りをすることで自らが得られるメリット

意見を聞くべきステークホルダー全員にリスクの有無を確認せずに勝手に行動してしまうと、意見を求められなかったステークホルダーはあなたに対して不信感を抱き、以後、あなたのことを危なっかしくて信頼できない人物として認識してしまう可能性があります。

事前にコンセンサスを得るというのを面倒に感じてしまうのは仕方がありません。でもこう考えてみてください、コンセンサスを得ようと様々なステークホルダーと話すのは、すなわち自分になかった発想や観点が学べる絶好の機会です。めげずに繰り返すことで、自然と広範的な組織観が養われ、結果的に「大きな仕事を安心して任せられる人材」になれるというメリットがあります。

3. ピクサーから学ぶコンセンサスの取り方

ピクサー映画は誰もが一度は鑑賞したり、広告で見たりしたことがあるはずです。ピクサー・アニメーション・スタジオの現社長であるエドウィン・キャットムルは自社の映画についてこう話します。

“Early on, all of our movies suck. Pixar films are not good at first, and our job is to make them so.”
我々の映画はすべて、初めは本当にダメ。我々の仕事は、最初はお世辞にもいいと言えないものを、本当にいいものにすることです。
Inside the Pixar Braintrust.
http://www.fastcompany.com/3027135/lessons-learned/inside-the-pixar-braintrust
(7月7日アクセス)

 

「いいもの」を作っていくためのピクサーの流儀にコンセンサス取りの大きなヒントが隠れています。

3-1. ブレイントラスト試写会

ピクサーには「ブレイントラスト」と呼ばれる、社内でもっとも信頼されアイディア溢れるピクサーの精鋭社員数名から成るフォーカスグループのような試写会兼会議が数カ月に一回行われています。参加者は映画を制作中の映画監督と、ブレイントラストのメンバーです。制作中の映画をブレイントラストに鑑賞してもらい、意見を述べてもらいます。この会議では以下のルールが適応されます。

1. 意見と批判を率直に述べる。
2. 批判をする時は、批判だけではなく、必ず解決案を出す。
3. 映画監督はブレイントラストから出た案を実行する義務はない。

コンセンサス2
つまり制作中の作品について辛辣な批判をされる代わりに、必ずより良い方向に前進できる道をいくつも提案してもらえる、という会議です。

3-2. ブレイントラスト試写会での映画監督の姿勢

自分の作った作品のことを批判されるために発表するのは、あまり気が進むことではないかもしれません。ただ、槍玉に挙げられるのは作品であって監督ではない、というのがブレイントラスト試写会の基本方針です。作品=作者ではないと割り切ることで、自分の施策やアイディアに対して批判があっても客観的に受け入れることができます。

また、ブレイントラストメンバーが出した提案を全て実行する必要がない代わりに、監督は良いと思う改善の方法を決め、なぜそう判断したかを、他者が納得する形できちんと説明できなくてはなりません。これを繰り返して最初は一個人の頭の中から生まれた未熟なアイディアやプランが成熟していきます。

ピクサー映画が映画館にたどりつく頃には、すでに多くの批判にさらされ、それらを受けて幾度もの改善がなされています。結果として万人に愛される映画に仕上がる、ということです。

3-3. ブレイントラスト試写会から得られること

ピクサーのこの習慣から学べることは、以下の通りです。

・ 一人~少数の人間で考えたアイディアや施策は、穴だらけ。
・ 多くの多様な人物の目にさらすことで、改善点が見つかる。
・ 改善点を指摘されたら、受け入れた上で改善の仕方の提案をしてもらう。
・ 改善をしていき、誰もが納得の行くものを目指せば、確実に良いものになる。

内部でコンセンサスをきちんと取ると、外部へお披露目する時には自信を持って出せるものに仕上がります。

4. コンセンサスを得る3ステップ

これまでお伝えしたことを踏まえて、コンセンサスを上手く得る方法を3つのステップにまとめました。

4-1. ステップ1:  たたき台は、たたき台のつもりで作る

大人数との合意形成をする上での一番大きな問題は、モチベーションです。コンセンサスを得ようとする施策が大きければ大きいほど、多くのステークホルダーに話を通さなくてはなりません。関わる人間が大人数になると、必ず「苦手な人」がその中に入ってきます。人を苦手に感じる代表的な理由として、相手が自分の考えに肯定的ではない、もしくは相手がなにを考えているのかわからないことが挙げられます。

つまり「自分の考えを肯定してくれない可能性がある」と、その人に自分のアイディアを発表することをためらいます。ためらったまま行動を起こさないと、コンセンサスをきちんと取らなかったということになり、後になって揉めます。

そこで、ステークホルダーに発表するために作るたたき台は、満場一致で褒めたたえられるといった淡い期待は抱かず、たたかれることを当然と心に留めながら、できる限りの努力を込めて作ります。むしろ、完璧を目指して作って、「穴を見つけられる人がいるものなら是非話を聞きたい!」という気持ちで多くの人に意見を聞くといいでしょう。さらに、「批判は勉強になる」と思えれば、コンセンサス取りをするモチベーションを保つのが楽になります。

4-2. ステップ2: 意見や批判が出尽くすまで引き出す

自分の施策実施のための合意形成をしていく中で、ステークホルダーの意見や批判をこれ以上出ないところまで引き出すのは大変重要です。問題が起こってから「だってあの時言わなかったじゃないですか!」「ちょっと考えればわかることでしょう!」という不毛な言い争いはしたくないものですよね。

「なるほど。他には?」「その他に何か懸念点はありますか?」というように一緒になって施策のアラを探すつもりで話し合いをすると、自分対相手ではなく、自分とステークホルダー対課題という関係性が築き易くなります。相手に批判をされてすぐに自己弁護をしてしまうと、話し合いはすぐに言い争いのようになってしまいます。

コンセンサス3
ピクサーのブレイントラスト試写会での映画監督と同じように、批判はあくまで施策に対する批判で、自分に対する批判ではないことを覚えておきましょう。今の自分が考えられる施策が、他者の客観的な意見を取り入れることでどう成長できるのかに興味を抱ければ、ストレスなく、さらにモチベーションを高めながら施策改善に取り組めることでしょう。

4-3. ステップ3: 改めて方向性を伝える

全てのステークホルダーとの合意形成のための話し合いが一巡したら、集めた意見を鑑みて施策を練り直します。この時、全ての意見を取り入れるはおそらく不可能でしょう。肝心なのは、最終的にステークホルダーの意見を取り入れる判断をした部分と取り入れない判断を下した部分両方について、なぜそう判断したかを改めてきちんと個々人に説明することです。そして、意見がなければ深く考えることもなかったことに感謝を示し、深く考えた末に判断を下したことを正直に伝えます。

この時のポイントは、目の前にいるステークホルダーの名前を出した上で説明する、ということです。以下に例文を用意しました。

ステークホルダーの意見を取り入れる部分の説明をする時:
「この個人情報流出のリスクに関しては、当初○○しリスクを最小限に抑えるつもりでしたが、早乙女さんから□□すればリスクをほぼゼロまで下げることができるというご提案をいただきましたよね。早乙女さんに相談してよかったです。この方向で進めさせていただきます。」

ステークホルダーの意見を取り入れない部分の説明をする時:
「この広告のデザインに関しては、播本さんから○○ではないか、というご指摘をいただきました。その通りだと思います。でも□□の観点から考えると、△△ということになります。そこであえてこのようなデザインのままが良いと判断しました。播本さんからご意見をいただかなければ深く考えなかったと思うので、大変勉強になりました。」

実際に相手の名前を挙げることで、相手の発言が最終的な判断に影響があったことを印象付けます。このように、ステークホルダーの意見を取り入れなかったとしても、納得の行く説明ができれば、コンセンサスを得ることができます。コンセンサスを得るということはステークホルダーに同意をするのではなく、合意を得ることを指します。

5. ステークホルダーたちが敵でないことを知る

理論上はこれまでお伝えしたことでコンセンサスが得られるはずです。とはいえ、やはり自分の考えに肯定的ではない人やなにを考えているのかわからない人と面と向かって話し合いをするには勇気や根気が要ります。しかしこのような人物との対峙はコンセンサス取りをするにあたって避けられないことです。でもこの煩わしい気持ちは、あることをすることで和らげることができます。

それは、「仕事」という環境の外で、その苦手な相手と話す機会を設けることです。仕事の文脈の中では、立場上相対したり疎遠になったりする状況がなかなか避けられないことがあります。しかし「仕事」という環境から一歩出たところで話すと、仕事の話しでは意見が反発しあうのにそれ以外では意外と馬が合うこともあったりします。

とはいえ、一緒に飲みに行くことをハードルが高いと感じるかもしれません。その場合は、相手がエレベーター前で待っているところを見たら一緒のエレベーターに乗ってみるといいでしょう。趣味や家族のことなど、どんな話題でもいいので、普段絶対に話す機会のない話をしてみましょう。共通点が見つかり、自分と同じく相手も守るものがあって譲らないことがあることがわかります。相手も同じことを思っていることでしょう。

Outside work

相手が敵対したくてしているわけではない、ということがわかれば、コンセンサスを得るための活路が見出しやすくなるはずです。

 

いかがでしたか?コンセンサス取りは、慣れないうちはたくさんの勇気が要ります。しかしステークホルダーの意見に耳を傾け自分の施策を改善していくうちに、自然と肯定する声が増えていくでしょう。つまり、あなたのサポーターがどんどん増えていくことを実感することができます。これは、大きな勇気へと変わります。

施策実施の許可と共に自信と大勢の支持者を得たら、あとは手足を動かすだけです。是非今回ご紹介したテクニックを試してみてください。