覚醒のチェンジエージェント第十ニ話

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「TOEICスコアを昇進条件に加えた時、社内で大不評だったわけですが、これに踏み切った理由は何だったのでしょうか?あれを理由に退職した者が、少なからずいます」と、僕は社長に疑問を突きつけた。

「あれか」と言って、徳居社長は一瞬、目線を落とした。しかしすぐに僕の目を見て話を続けた。

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覚醒のチェンジエージェント第十一話

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「ほう、ベルリッツと協力して研修計画を立てるんですね」と、水谷さんは企画書を眺めながら言った。

トクイにとってのグローバル人材を定義する。トクイにはそもそも、グローバル人材と呼べるような社員がきちんと育つ自己成長コンテンツを十分に有するのか、調査する。穴があれば、新たな研修を組んで、適宜埋める。和泉さんと全国を駆け回ったり、社外の人間に知恵を借りたりしたあげく練り上げた人材開発課の方針は最終的に、目標設定、現状把握、そして弱点補強というシンプルな3部構成の計画に集約された。

「はい。なるべく早く取り組ませていただきたいので、できれば私から社長に直接提案させてください」と、僕は人事部長に詰め寄った。

水谷さんは「うん、それがいいですよ。社長も喜ぶと思います。なにせ、営業にいた仁君を人材開発課に配属するよう私に言ったのは、徳居社長ですからね」と、急に思いもよらないことを言った。

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覚醒のチェンジエージェント第十話

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和泉さん、坂口さん、そしてイーライさんが静かに見守る中、「すみません、お待ちいただいて」と、僕はマーカーをホワイトボードの受け皿に戻しながら言った。

トクイ・アグリテックがグローバル化するには、場所が海外であろうと、相手が外国人であろうと、トクイの人材が自らの「らしさ」を仕事の中で発揮できるようにならなくてはならない。

会社がこの目標の達成を目指すにあたり、人材開発課が担うべき仕事とはなにか。ベトナムで活躍している森山さんをはじめとするトクイの社員たち、ベルリッツの広明さんや坂口さん、そして誰より、自らトクイの社員の鑑になりつつある和泉さんと向き合うことで得たヒントがつながり合い、一つの絵になった。

しかし頭の中に思い描いた構図は、横幅2mほどのホワイトボードには全く収まりきらなかった。人材育成とはそれだけ大きな事業なのだ。目の前に現れた図を見て、初めて、そう思った。

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覚醒のチェンジエージェント第九話

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昨晩雨が少し降ったのか、空気が澄んだ朝だった。坂口さんは打ち合わせに身綺麗な白人男性と一緒に現れた。

「弊社で主に研修開発を行っているイーライという者です。中小から大手様々な企業の研修に携わっておりまして、人材育成に関しては知見がございます。本日のディスカッションに参加させていただければと思います」と、坂口さんに紹介されると、男性は「イーライです。よろしくお願いします」と、綺麗な発音で挨拶した。

「よく言われると思いますが、日本語がお上手ですね」と言うと、彼は「いえいえ、挨拶がやっとできる程度ですよ」と、これまた流暢な日本語で謙遜した。異国から来た人がこちらの言葉だけではなく文化さえも理解してくれているとわかると、なるほど、ここまで好感を抱くものか、と思った。

坂口さん、イーライさん、和泉さんと僕の四人で会議室の円卓を囲んだ。和泉さんの方に目をやると、昨晩遅くまで作成していた資料をテーブルの下で強く握りしめているのが見えたので、世間話も早々に切り上げ、本題に入ることにした。

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覚醒のチェンジエージェント第八話

予定がなかなか噛み合わず、坂口さんとの打ち合わせが実現するまでに1ヵ月かかった。

その間、和泉さんは各部署とかけ合ってエースと呼ぶにふさわしい成功体験者を選出してもらい、およそ六十名のリストを作ってくれた。僕は人事部長である水谷さんにこの六十名の、いわばトクイのグローバル人材候補たちへのインタビューを実施したいこと、彼らの経験談を元にトクイらしいグローバル人材像を探りたいことを伝え、決裁を仰いだ。

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覚醒のチェンジエージェント第七話

慣れない電話会議システムの設定を終え、ハノイにいる森山さんから電話が入るのを待った。向こうは直前まで会議があるそうで、少し遅れる可能性があるとメールには書いてあった。

待っている間、「お恥ずかしい話ですが、私、うちが何をしにベトナムに進出しているのかよくわかっていません」と和泉さんが言うので、僕も詳しいわけではなかったが自分が知っている限りのことを話した。

ベトナム政府の科学・技術省は昨今、農業への新技術応用に力を入れていて、日本で最新技術を開発し展開するトクイ・アグリテックの噂を聞きつけた。ラブコールは日本の農林水産省を経由し、徳居社長と科学・技術省長官の会談が実現。ハノイ付近の農地を借り、ミニトマトの完全コンピューター制御による栽培を試みることに合意した。

現在ハノイ支社では現地技術者三名と他数名のスタッフと共に第一の温室を運営テスト中だ。二年ほど前から赴任している森山さんはハノイ支社長を務めている。

ちょうど話の区切りが良いところで電話が鳴った。

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覚醒のチェンジエージェント第六話

覚醒のチェンジエージェント第六話

※ この物語はフィクションです。 小説中に登場する人物・団体・店舗などは、 ベルリッツ・ジャパン株式会社をのぞき全て架空のものです。また、作中の人物の発言は、ベルリッツ・ジャパン株式会社の公式見解ではありません。

「日本語、英語と関西弁のトライリンガルの坂口です」と言いながらベルリッツから来た営業マンは名刺を差し出してきた。坂口光一(さかぐち こういち)。話し方が緩い服の着こなしと一致していて不思議な安心感があった。見慣れない生地のネクタイを締めていた。

和泉さんから簡単に紹介があった後、三人で窓からの眺めがいい会議室に移動した。

 

雑談がひと段落すると、坂口さんが本題を切り出した。「今回は、何かお悩み事があると清水から聞いております」

「はい。語学研修などに直接関係がないかもしれないので、御社に相談して良いものか迷いましたが・・・」と、僕はTOEICスコアが社員の昇進条件のひとつになっていることや、海外進出はすでに始まっているにも関わらずほとんどの社員が英語学習に身が入っていないということを話した。原因としては、自分たちの会社がグローバル化した姿をイメージできていないことが仮説として考えられる、ということも話した。

見えない向こう岸に行きたいか聞かれてもわからない。ただわかるのは遠いということだけだ。

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覚醒のチェンジエージェント 第五話

Attractive businesswoman on dark background

※ この物語はフィクションです。 小説中に登場する人物・団体・店舗などは、 ベルリッツ・ジャパン株式会社をのぞき全て架空のものです。また、作中の人物の発言は、ベルリッツ・ジャパン株式会社の公式見解ではありません。

私には野望がある。

地方の農家にガンガン儲けてもらう。トクイが持つ素晴らしい技術で。

岩手の実家の周りには農家がたくさんある。私が住んでいた頃はもっとあった。息子さんが家業を継いだところもあるけど、ほとんどの農家のおじいちゃんおばあちゃんは体力的に面倒を見られなくなった畑や農園を縮小していくしかなかった。

 

「そこに徳居社長が現れて一発逆転ですよ!」と、思わず4杯目のビールグラスを振りかざした。すると隣の席の外国人の一団がふり返って一緒に掛け声を上げてくれた。

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覚醒のチェンジエージェント 第四話

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※ この物語はフィクションです。 小説中に登場する人物・団体・店舗などは、 ベルリッツ・ジャパン株式会社をのぞき全て架空のものです。また、作中の人物の発言は、ベルリッツ・ジャパン株式会社の公式見解ではありません。

広明さんの後姿は独特だ。力強いのに主張しすぎない。身体はがっしりしているのに物腰が柔らかいからかもしれない。温厚で柔和なところもあれば、決して有無を言わせない厳格さもある。かと思えば人懐っこいところもある不思議な人だ。

青山通りを歩く広明さんに追いついて挨拶した。

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覚醒のチェンジエージェント 第三話

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※ この物語はフィクションです。 小説中に登場する人物・団体・店舗などは、 ベルリッツ・ジャパン株式会社をのぞき全て架空のものです。また、作中の人物の発言は、ベルリッツ・ジャパン株式会社の公式見解ではありません。

引き継ぎは淡々と進んでいった。

三上さんは昇進条件にTOEICスコアを導入したのも、TOEIC研修を実施し始めたのも、とにかく社長から言い渡された期限に間に合わせることだけを考えて必死に取り組んだのだと話した。

「最初にTOEIC導入の目的や意義をよく考えていれば、社員へのコミュニケーションももっといい形でできていたかもしれませんね・・・」と、三上さんは話の途中に漏らした。

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